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蒼月猿芙庵   氏家 秀 [小説 戯曲 三島由紀夫 Balzac Kafka]

 慶長二十年は夏に改元して元和元年となる。よって大阪城が陥落した豊臣滅亡、夏の陣はおよそ改元のふた月ほど前になる。一統を見たのも束の間、朝鮮半島への侵略が天下布武の駄賃戦争なら、民衆の訴求安堵は太閤の余命幾ばくかの指折りにあっただろう。そして権力の実際は民衆の感覚から疎遠なものだが、その権力の継承たる家督の存続ともなれば、王母の思いは民衆のそれと同様に頓挫などは許さない。終局の前年にあたる慶長十九年より、世は淀の方の意地に曳き摺られてか、十月の冬の陣から国家安康の勾配を真逆に転落して、かつて水上の坊舎の極みと称えられた石山御坊の地は、阿鼻地獄の牙城と化していった。畿内の武士町人はもとより、東西の耳聡い民衆誰もが大戦にして決戦であることを予感していた。
 さても折りも折りながら、未だその年の冬の陣の馬蹄など露知らない中春、京の二条の角倉(すみのくら)家では、嵯峨野の俊才甚だしいと噂された若旦那の与一が、甲高い放屁の後に溜め息をふうっと吐いたところだった。角倉の若旦那とはいえ、父の了以(りょうい)が急に寝込んだこともあって、店(たな)の隅から隅までをあずかる正真の旦那になっていた。遅咲き梅にかかる雲を見れば、遥か安南の船荷が思いやられ、雨滴を残したさざれ石を見れば、伏見の堤の曲がり石組みを思ってしまう。ならばと戦米と称した備蓄の近江米の台帳を手繰り寄せ、人目を憚るように裏表紙をめくり見てみる。裏表紙には「算法統宗」から写した検地の斜め割り図が鎮座していた。しかし考え込む前に眼が乾いたように思えてきて、放るように台帳を脇へおいた。それを見ていた御新造さん、肥えた猫が嗅ぎつけたように小走ってきて、台帳を拾うなり与一の右肩に手を添えた。
「また算術のこつで悩んではるん?」
「悩んではるというほどのこつでもおへんが」
「算術のこつでなければ…女子どすか?」
「昼間から大声で何を言うのかと思うたら」
「もそやけど、大旦那さまが徳川さま寄りになっておられたんで…」
「今度は仕事の話かい、忙しい女子やな」
「このまんま戦がはじまれば、前に伏見の城で見はった腰元の一人二人のことが心配とか?」
 与一は女房の手先から福々しい顎先まで辿って、感心したように頭を振って左脇腹を押さえた。
「よくもそこまで考えるもんやね、女子いうもんは」
「どうせ、女子いうもんどす。ところで、七兵衛が旦那はんと同じような顔をしていらしてますよ」
「それを先に言うてぇな」
 与一は軽く女房の膝を突いて立とうとした。勢い腹に力がこもって残り屁を低く出しきる。御新造さんは慣れたもので、台帳を鯨皮のように振って首をひねっていた。
「ちょい訳ありそうな女の人が一緒どすけれど」
「女?七兵衛が女を?」
「話の中身によっては適当に聞き流してやってくださいよ」
「分かっとるよ」
 与一はそう言って行きかけて、女房の腕を掴んで台帳を取りあげた。台帳はいつでも持ち歩かなければならない。口さがない女房に「仕事をしとるふりどすか?」と見透かしたような目で言われても、人足工夫を使う身であれば多忙そうに見せなければならない。実際のところ、頑健を彫りこんだような父が正月に倒れてからは、あらゆる台帳を持ち歩くかの如くであった。そして嵯峨の若輩の沈思へ戻れる瞬間が、裏表紙の「算法統宗」から写した地の割り図や立ち木測量の三角にひいた線引きだった。また女房に「算術なぞに凝っていては、そのうち狂いますよ」と揶揄されても、脳髄に巣食った好奇は削り落せない。しかも似た者同士の親類縁者にあって、吉田七兵衛は弟分というには十分若い十六歳だったが、外祖父にあたる角倉の家業から遊びまでに何かと早くから関わっていた。その日の午後も、紙束を持った七兵衛が呆けたような顔でやって来ると推察はしていた。しかし女が一緒と聞いて、与一は背筋を伸ばして歩みを緩めて敷居を跨いだ。
「おお、おいでやす」
「お忙しいとこ、邪魔します」
 七兵衛もいつもの挨拶をしながらいつもの呆け顔ではなかった。横で三つ指を立てて流行りの唐輪髷(からわまげ)が平伏すれば無理もない。上げた女の顔はたおやかだが、左耳の下に赤らんだ火傷痕があって、些か疲れているように見えた。
「うちのがね、七兵衛が女を連れてきた言うていて、えらい大騒ぎさ」
「普段の手前がどう思われとるのやら…こちらは、今は甲賀にやはる蔦女(つため)はんという方で、甲賀へ出されるまでは、新上東門院さまの女房のお一人でいらっしゃった方どす」
 与一は疲れ顔が昨今の宮中下がりなら無理もないと、思わず納得したように膝頭を叩いてしまった。
「こりゃこりゃ、そないなお方が、土足工夫も出入りする角倉へ、何でまた?」
「あのう、蔦女はんのお父上が…言うてもらえまっか?」
 七兵衛にあっさり投げられて、蔦女という女は襟元に落ち着かない指先を上下させてから呟くように言った。
「はい、このまえ、伊豆へ流された左近衛少将、難波宗勝(なんば・むねかつ)どす」
 与一は小さく仰け反って台帳を腰裏へまわした。少将にしろ中将にしろ、公家の零落に今更目を見張っているわけではないが、遡る慶長十四年のいわゆる猪熊(いのくま)事件に関わって流罪に処せられた難波宗勝、その名前が蔦女の父では「難儀を持ってきおったな」と七兵衛を睨むしかなかった。
「難波宗勝さま…そらまた驚きますな。難波さまは、たしか二年前に勅免されはったのでは?」
「はい、都へ戻ってからは屍同然に過ごしてやはるとか…」
 与一は頷きながら首を傾げて、七兵衛に話の流れを催促するものの、算術に夢中になっているときの闊達さはとんと影を潜めていた。
「ほして、七兵衛とはどないな関係で?」
 聞かれた蔦女はちらりと七兵衛を覗いたが、算術坊やは問題を持ってきていながら、例によって問題の流々たる開示は覚束ない。それでも少しは大人になったのか、惑する雑感を打っ棄って座り直すようにして話し出した。
「与一さま、若旦那さまには初めて申し上げることになりましょうかね?」
「何んを、内容が分らんさかいことには、初めてもしまいもへんやろう」
「へぇ、一昨年どすけど、大旦那さまが、わてに手代の庄吉はんについて行って、甲賀衆による八幡の水運工事を見てくるよう言わはりました」
「憶えとるよ」
「へぇ、そのとき、京への帰り道でどったん、となって…わての目の前に、こちらはんが、ばっさり落ちてきたさかい助けたんどす」
 七兵衛は両腕を広げて仰け反ってみせた。
「その、どったん、ちゅうのは何なん?」
「爆発どすかな」
「やったら爆発と言うたらええ、街道筋で…どったん、かえ?」
「ちゃいます…」と応えて七兵衛は改めて腕組みして蔦女の横顔を覗いた。
「庄吉はんの知り合いが、大筒よりも小さめの小筒ちゅうのか、長さ四尺で太さ三寸ほどの、武蔵あたりでは龍勢とかいう火筒の試し撃ちを、是非とも見ていってくれと言わはって…」
 蔦女は七兵衛の目を気にするように左の項を押さえた。
「そのときに、失敗か何やして、どったんか?」
「ちゃいます。その試し撃ちを見る前に、どったんで、こちらの蔦女はんが降ってきたんどす」
 与一は厭きれたように腕を組んで、しっかりと女の方へ向いて首を傾げた。
「振ってきたって…蔦女はんは樹の上にでもおられたんどすか?」
 蔦女は項の火傷から手を離して、恥じらうように上目遣いで微笑んだ。
「へぇ…おりました」
 与一は目のやり場に惑しているような七兵衛に微笑み返した。
「また驚きますわ。あんた女子やし、見たとこ三十もいってないやろうが、まあ立派な大人でっしゃろ?樹の上で何をしとったん?」
「へぇ、見張りを仰せつかっとったのどす」
「見張りぃ?甲賀衆の火筒撃ちを見張りでっか?なんで左近衛少将の娘はんが、そないなこつの見張りをしていなければならへんどしたん?」
 七兵衛が胸元を合わせて半歩前ににじり出たので、与一は慇懃な面持ちでさらりと右手を掲げて制した。
「ここは、ひとつ角倉のあきんど云々とかなく、もの好き人好き算術好きの七兵衛の伯父として承るんやさかい、気を使いまへんでとっくりと話してくれまへんか?」
 蔦女は大きく頷いて火傷に至るまでを話してくれた。
 少将難波宗勝の三女として、姉たちと同様に気苦労もなく新上東門院に仕えていたのも束の間、天下無双の美男、左近衛少将、猪熊教利(のりとし)が起こした乱行に、温厚で気弱な父、難波宗勝も連座していたということで、激怒された後陽成帝は関係者を厳罰に処するのみならず、その一族の者で朝廷に務めて日が浅い者まで見せしめに放免されてしまった。難波の家では、立ち回りの遅い長女と世間知らずの三女が形式的に、甲賀の近江国分寺へ下りおかれることになった。長女は歳と器量もあって素直に寺へ入ったが、三女は甲賀の山里で女性に生まれての喜楽に開眼して、傷ひとつなかった身を預けた先が、甲賀二十一家のひとつ杉谷家だった。甲賀の杉谷家は、信長を狙った善住坊を出した家柄としてすでに有名だった。そして天正年間のうちは睨まれるのを懼れて、あくまで甲賀を出奔した者として注目を凌いでいた。そもそも根来衆として雑賀の鉄砲術を会得した善住坊が、信長の狙撃に失敗して追われる身となり、湖対岸の阿弥陀寺に隠れているところを捕縛され鋸挽きに処せられた、というこの壮烈な事件は、杉谷家の他家同様に伝えられてきた火術を特別視扱いさせるものとなった。一口で言えば、太閤の世になってからは、鉄砲や火筒に敏い家柄として知る人ぞ大いに知ることとなった。その杉谷家の三男月笙(げっしょう)は、持ち運びに利便な火筒の小型化や短筒の調整工夫に長けていた。しかも月笙は猿骨敏捷な体躯と創意聡明な顔立ちゆえ、蔦女は一目見て惚れこんでしまい、雅な己が身分も育ちもさっさと捨ててしまった。月笙にしても、泥が着こうが火傷が着こうが、近江山野では見られぬ蔦女のたおやかさを無視できなかった。ともかく遅い妻となった蔦女は、戒律厳格な甲賀衆としての生活に貪るように馴染んでいった。すぐに長男をもうけて、一昨年には次男をも授かって、防備としての杉谷の火術を修めはじめて、昨年からは短筒も携帯するようになっていた。
「火筒の試し撃ちの披露の折、見張りで樹に上り…あの事故に遭いました。いいえ、暫くは事故やと思うていましたが…あら、事故ではおまへんどした。うちは七兵衛はんに助けてもろたけど、伊賀の仲間が来るのを待っとった夫月笙は…あの爆発で両目を失明してしまい…夫が顔を見てから婆に預けにいった次男は…あまりにも短い生どした」
 与一は返す返すも嘆くしかない息を、七兵衛の鼻面へ吹きかけるように吐いた。
「世の中、今もって治まってへんわけやけど…お子はせっしょうやな。で、事故おへん、ちゅうのは?」
「はい、七兵衛はん一行がお見えになる前どした。月笙が珍しく若い衆を叱っておったんどす。杉崎の者しか使いまへんその辺りに、雑な蓬火薬のようなんがあちらこちらに撒かれたようにあったからどす」
「よもぎ火薬か…本願寺でも作ってはったそうな」
 蔦女はひくりと鼻先を上げて幾らか涼やかな目つきを流した。
「へぇ、角倉の旦那はんは工事に使うで、火薬にお詳しいこつは七兵衛はんから聞いとります」
「詳しいのは寝込んではる親父の方で、大堰から富士川、天竜川の発破がけを先頭に立ってやってはって…わても硝石を扱うて一応、火薬がえらい危険なんは知っとるけどな。ほんで危険やから、その辺りに水でも撒いたんかな?」
「そうどした、水を撒けばよかったのどすが…試し撃ちの時刻も迫ってきてはったさかい、筒や的のまわり、ほんで各自の袖肩や足許をよく掃っておくよう月笙は言うてました」
 蔦女はまた項を押さえて、その瞬間に至る刻々を搾り出すように語った。
「伊賀衆はなかなか現れず、そのうちに七兵衛はんたちがお見えになったんで…後々に分かったことどすけど、伊賀衆は向かって来る途中で鉄砲に狙われて足止めをくっていたんどす」
「しはると、伊賀衆は爆発に遭わんとすんだわけや」
「へぇ、ほして、七兵衛はんたちがお見えにならはったさかい、月笙は試し撃ちの準備をしもって…うちに、風が淀んでいて油臭いような気がするさかい用心を怠るな、とたいそう厳しい顔で言いました」
「油臭かったんどすか?」
「そんときには…うちほどの修行ではまだ…」そう言いかけて、蔦女は項においていた指先をかつりと咬んだ。
「ほんで七兵衛はんたちが、うちが見張っとる樹の下あたりまで下がられたとき…右奥の蔦漆の辺りが発火して、それが火の縄みたいになって斜交いに走ったかと思ったら…どったん、どした」
「あんたまでどったんて…七兵衛やろ?」
「ちゃいます。御所の女房衆も、どったんて言うてます。難波の父は動くと堕ちるの二字をあててらっしゃいました」
「動堕はともかく、えらいめに遭わはったわな」
「へぇ、あの爆発で、何もかもが火の粉になって吹きとんでしまいました。月笙の眼二つに、月笙のまわりにあった火筒、木箱、皮袋、ほんで若い衆、ほんで…うちは落ちて耳が聞こえなくなっていました」
 与一は頷きながらつっと立って敷居を跨いだ。縁台が濡れだしたようで、雨雲に眉をひそめて言った。
「わても忙しい身やし、急かして申し訳ないが、ほんで七兵衛を訪ねるまでを…」
「へぇ…失明した夫月笙は、伊賀衆が足止めをくっていたことから、甲賀衆を、あるいは杉谷の一族を害しようとする敵がおると断しました。月笙は杉谷の父と話し合って、謀りごとにしてやられたんなら、その敵を知らなければと、山中家や黒川家の力を借りて敵の探索にあたりはじめました」
 与一は洛西の方から白々と下りてきた驟雨に目を細めていった。
「やくたい(無意味)な日々が過ぎていって、しんどかったんどすが…先だっての正月、屋敷裏で雪と遊んでおった長男が耳を撃たれました。幸い一命はとりとめました。月笙の弟が、撃った猪狩り格好を追いかけましたが、口封じやろけど、そん者はあんじょう(上手)な腕前で撃ち殺されました。ほんでも、弟がそん者の体を探ったら…十字を持っておったんで、敵に切支丹がおるいうこつは分かりました」
 与一はくるりと踵を返すと台帳で膝をひとつ叩いて、心なしか早足で座敷へ戻った。
「切支丹か…天主堂が焼かれたんは一昨年やったな」
「へぇ、一昨年に徳川さまがご禁制にしはったんで、切支丹は探そう思えば、見つけるのは甲賀衆よって簡単どした。日も置かんと黒川の者が嗅ぎつけてきて、杉谷家の敵が原田甘絽(かんろ)もしくは原田カルロ、という切支丹だと分かりました」
 蔦女の上目遣いは、腕を組んだ角倉の旦那の表情を見逃すまいといったものだった。
「そん原田カルロは、旦那はんもご存知の原田アントニオの義理の弟、妹の亭主にあたるそうなんどす」
 与一は目を合わせず鷹揚に頷いてさすがだった。
「ほんで納得したわ、前に会うたこつある七兵衛を介して、蔦女はんがこうして二条までお越しの訳が。そうでっか…慶長は十四年あたりでっしゃろか、嵯峨本のために、下京の原田アントニオに、活字を組み立てる伴天連式いうのか、あちらの印刷方を教わってな、わても大黒町の上木場まで通ったわ…そうでっか、原田に妹はんがおられたとは…妹はんいうても、えらいお歳とちゃうかな?」
「へぇ、とうに還暦を過ぎとるそうで…切支丹の筋ちゅうは間違うないさかい、広く探索してもろうてました。甲賀衆が近江から京まで、徳川さまに覚えがめでたい伊賀衆が大和から摂津の方まで、甲賀伊賀揃うて探索してもろうてましたが、原田アントニオと妹の行方はさっぱりどす。長崎の、何とかいう伴天連の許へ向かった後では、と杉谷の父と黒川の者が言うてます」
 与一は拍子抜けしたように鼻息を漏らして首を傾げた。
「わては知りまへんで、原田の兄妹の行方なんかは…そん原田カルロいう男も初めて耳にしたんやけど、肝心なんはそっちやな…ほんで、黒川はんはどないしてカルロに行き着いたんや?」
「へぇ、十字と鉄砲から堺で耳にして…そんなんしてるうちに、弥生の先月、甲賀の最勝寺に、カルロの方から月笙宛てに書状をよこしたんどすわ」
「やるこつが早いちゅうこつは、畿内の戦仕度がはじまったこつか…ほんで中は?」
「中はどすな…同じ甲賀衆の山中と黒川、この両家の今年一杯の火薬作りと試し撃ちをやめさせい…また伊賀衆の藤林と百地、そして服部にも同じことを伝えて、言うたとおりにならんかったら、杉谷の者と同じように甲賀伊賀の稚児と女子を…殺めると…」
「無茶苦茶やな、誰がどう見ても、徳川さまに加担すな、いうことやろ。どれだけの豊臣恩顧か分かりゃあしまへんけど…もとより、切支丹が太閤さまから直に恩顧を賜った話はよう聞かんから、ここに至れば、大阪方はデウスも仏も何でも使いはる気やろな」
「へぇ、甲賀伊賀が徳川さまにお付きするは、関が原前からどすのに…ほんで、いっとう大事なこつを申しあげんと…」
 蔦女は頷くようにして腹下の名護屋帯から紙切れを取り出した。
「うちはこれを持って、急ぎ嵯峨野の七兵衛はんを訪ねたんどす。ほんで七兵衛はんは、急ぎ二人で二条へと…一昨日、最勝寺の本堂にこれが…」
 与一は軽く訝ったような眼差しで、受け取った紙切れをからからと開いて声に出した。
「なんやて…くだん申しつけし伊賀衆の鉄砲火薬の扱い控えること、当方の意に反すれば伊賀卑命が所司代板倉勝重一命に成り変ること申しつけし候。さらにくだん申しつけし甲賀衆の鉄砲火薬の扱い控えること、当方の意に反すれば甲賀卑命が…嵯峨角倉吉田了以一命に成り変ること申しつけし候…えらいこっちゃな」
 七兵衛は小さく咳払いしてから前傾になって囁くように言った。
「大旦那さまが切支丹に恨まれるんは筋違いも筋違いや」
 与一は裏を確かめてから紙切れをさらりと返した。
「切支丹だか高野聖だかは知らんけど、そん原田カルロに、馬の一頭二頭なら早よう差し出させい言う、えらい高飛車な天下取り気分のお方が後ろにいらはるいうことやな。ほんで、そんお方は、角倉の了以が寝込んでおって、長くはおへんこつもご存知あらへんわけや。親父も、所司代板倉さまと並び置かれて、倅のわても喜んでええのか…」

 その頃は桂川の落ち込みや淵に小鮎が見えはじめる。嵯峨野の春の水際には、人の世の不穏な影など垣間見えようもない。角倉の別邸、吉田屋敷から不穏な音沙汰があったわけではないが、山崎の合戦あたりから、角倉の商いと甲賀衆あるいは伊賀衆の活動には、時勢に乗って互いに馴染み沿う了解があったので、蔦女は月笙の妹、椎葉(しいば)と供に、与一から警護の頭に任じられた七兵衛に就きしたがった。屋敷の周りは洛中の往来のような騒々しさからは遠かったが、やはり辺りは嵯峨野にして対岸は嵐山、夜ともなれば野良猫は我がもの顔で徘徊して、時として松尾山の方には野猿らしき枝さがりが見えるのだった。
 その日も折りも折りの申の刻、七兵衛は縁台で立ち木測量の線引きを半睡の眼で見ていた。屋敷表の警邏には了以の発破がけの弟子が三人、屋敷内には前日から蔦女が甲賀へ戻っていたので、七兵衛と椎葉の二人だけであった。義姉である蔦女からすれば、椎葉は夫月笙を幾らか華奢にしただけで、風貌はむろん無粋な言いまわしまで酷似している。そして火術の会得は兄任せだったようで、竹生島流半棒術に親しんでいたという祖父の影響もあって、兜割(かぶとわり)を扱うことに習熟していて甲賀随一と評されていた。椎葉は枝鉤がついた朴鉄に見える兜割を、些か渋い顔で眠気を払うように振っていた。
「えらい精が出ますわな、椎葉はん」
 椎葉は取ってつけたような大人びた言い草を無視していたが、栂野の方から雨雲が広がってきたのを見て肩を緩めた。
「七兵衛、歳はいくつて言うてた?」
「椎葉はんよりも幼い十六どすわ」
 椎葉は男のような自分の右肩口を一瞥して、吹いたように苦笑しながら縁台に座った。
「十六か…寝てるとな、背がみっしみっし言わんか?」
「みっしみっし?みっしみっしはよう分からんが…眠うて眠うてしゃあないときがありますわ」
「縁の下の猫と同じや、夜寝ないから、夜寝られないから、昼になって眠とうなっとる…十六やな」
「十六やから寝られんとちゃいます。爺さん、大旦那さまのこつが心配でな、とくにあの明け方の怒鳴らったような咳が…」
 椎葉は十六の後れ毛に目を細めながら、唐輪髷から細魚を模った簪風の目打ちを一本抜いて日に翳した。
「今夜はお湿りやろから、皆ゆっくり寝れるやろ、縁の下の猫のほかは。切支丹やら、蓬火薬を撒く奴らやらは分からんけど…」
 申の刻から酉の刻へ、薄明に闇が染み渡りはじめた頃だった。七兵衛はやっと粥を啜っている了以を見ながら夕餉を頂いていた。椎葉は天竜寺参道の方に足が向きかけていた。夜半の警邏をする爾輔(にすけ)と様子を確認してから屋敷へ戻ろうとすると、裏手の参道の方で火薬が弾ける音がしたのである。小花火ほどの音だったが、祭神事の季節でもなく、参道では忌むべきことである。椎葉が参道へ向かう軒下の闇へ肩を入れたときだった。
 屋敷内の方から悲鳴があがった。椎葉は「謀ったな」と呟いて勝手口へ急ぎ返した。表の角をまわって男姿が勝手口へ向かってくる。鬼のような形相の爾輔だった。
「戻れ、表から離れんと、中はわいがやる」
 椎葉は肩ごと怒突くようにそう言って勝手木戸をくぐった。土間に人気はなかったが、こちらへ向かってくる悲鳴は、世話をしている手代の内儀のような、ここのところ聞き慣れた盛り猫のような…廊下を転がるように来るのは内儀だったが、背後で奇声をあげているのは剛毛の四つ足だった。縋ってきた内儀を抱えるようにして、確と見えたのは濡れそぼった猿である。椎葉が唐輪髷に手をやると、さすがに威嚇の小牙を光らせて両脚を固くした。猿だと知れば、目打ちを撃ちこむ手が止まっていて…それにしれも猿の濡れ頭はどうしたことか、未だ小雨とて降っていないのに…背から尻尾にかけて小竹の筒を付けている。微風が油の臭いを嗅がせた。
「小ざかしいこつ…」
 椎葉はそう口中で呟いて目打ちの一本を咥えた。人など到底及ばぬ敏捷を捉えるには、放つ手振りが見えないほど小振りでなくてはならない。猿も殺気を察して庭の灯篭へ向いた。儘よとばかりに目打ちを撃った。続けて口の一本を灯篭めがけて撃った。さすがに一本めはかわしたが、灯篭上で跳足が油滑りに取られて二本めをくらった。椎葉は庭へ降りる勢いのまま兜割を振り下ろした。
「油やろか、油みたいなん撒かれてもうたわ…」
 七兵衛が呑気な口調で廊下を来るのが聞こえた。
「七兵衛、大旦那から離れたらあかん言うてるやろ!」
 椎葉は筒の油を一舐めしてから怒鳴った。さらに反転して外れた目打ちを拾うと、暗がりに猿を見ようと腰を屈めている内儀を睨みつけた。
「お内儀、油を拭かんと火つけられたら仕舞いや、小袖でも反物でも何でもええから、皆で拭いてや」
「ああ、小袖言うたかて…白い千早(ちはや)でも?」
「千早?千早でも打掛でもあるもん使うて拭いてや!」
 椎葉は言うなり藤の小棚囲いを蹴倒して、竹一本を掴むと縄を千切るようにして表側へ向かった。皮肉なことに豪商の屋敷ともなると庭にも拡がりがある。了以の許へ戻ろうと滑っている七兵衛、曲がりで夕餉の鍋を抱えて泣いている下女、不意を突かれて慌てふためく様子は見てとれたが、火の気は灯りひとつなかった。老梅の枝をまわると、表門では爾輔の他の弟子二人が構えていた。
「爾輔はんは?」
 爾輔よりも若い二人は興奮して裏の勝手口の方を指した。表を二人に任せて裏を見に向かった爾輔…椎葉は二人に火の気を念押しして裏へ右をまわった。表界隈は船着場に通ずる賑わいがあったので、折りよく隣家や串魚売りが集まり騒ぎだしている。それにしても、何故、敵は火をつけないのか、と椎葉は路地の人込みをよけながら思った。
 勝手口まで戻ったときに、今し方鼻先にあったけもの臭を感じて、参道に通ずる路地奥に目を凝らした。軒下の闇から息づかいが聞こえたような…左手で竹先を探り突いて、右手で兜割を上段に構えた。半歩もしないで竹先に小突かれての泣き声があがった。それこそ猿と見紛う黒目がちな童である。椎葉は兜割の棒先を正眼に収めた。
「爾輔、爾輔、どないしたんや…」
 椎葉は舌打ちして木戸をくぐった。木戸脇で内儀が爾輔を抱きかかえている。脈はまだあったが、腹部の血溜まりから殺傷の深さが知れた。
「爾輔はん、血ぃはとまる、血ぃはとまるから気張ってや」
 爾輔の苦みばしっていた頬は弛んで、肋間の傷を押さえる女の手に無骨な指をおいた。
「奴は…猿の顔にな、十字当てて泣いとったで…わいは阿呆や…声かけんと…後ろから叩くんやった…」
「爾輔はん、こんでええんや、よう真っ当に向き合ってやらはったな」
「奴は…目ん玉がな、つっきや…ごすぅのつっきやった…」
 椎葉の手にかかっていた男の指がはらりと落ちた。
 酉の刻も過ぎようとする頃、与一と手代は早くも二条から馬をとばして嵯峨の別邸へ姿を見せた。寝たきりの了以もかろうじて猿の油撒きを解している。女たちは灯りを使わずの油拭きに難渋していたが、椎葉と男たちは犠牲者の大柄な骸を前に黙していた。毎晩のように続いていた猫の交わりも、尋常ではない二足の駆けめぐりに鳴りを潜めているかのようだった。
「つきぃ?つきは月読社の月やろな。ごすの月、ごすの月いうてたか…」
 与一の推しての語りと応じたように、寝たきりの父親が幾らか首を上げて咳き込んだ。手招くような指先に手代の仙蔵(せんぞう)が耳を寄せる。仙蔵は聞き取った内容をさて置いて、未だ火花を散らしている大旦那の脳髄に恐れ入っていた。
「たいしたお方や、うちの旦那さまは…ごすは呉須の釉や、そない言わはってますわ。皿の絵によう使われとる藍色の釉、そん釉の呉須のこつですわ」
「釉の呉須…藍の蒼さか…」
「へぇ、爾輔は、こうして立派な五体のまま亡うなってしもたけど、丹波の生まれで小僧の頃から焼きもんに接してましたよって、丹波から信楽、伊賀、ほんで唐もんにまで詳しゅうして…」
 与一は手代の老肩に手を置いてから、若い衆の方に向いて座り直した。
「蒼い月や、爾輔を殺めおった奴は、蒼い月のような目ん玉をしとる。南蛮のもんか、南蛮のもんと交わってでけた奴や…昼はえらい目立つわな」
 椎葉はごっくりと喉を鳴らしてから、ゆっくりと恥じるままに伏して言った。
「夜に現われよる月の眼の猿使い、そん化けもんから大旦那さまをお守りするんは、わいと店の男衆二三人では…」
「わても甘う見ておった。蔦女はんが持ってきてくれはった原田の書状、商売柄、店先によう放りこまれる脅し文いう扱いしておったんが…しゃあない、親父は二条の方へ移ってもらう。同じ憂き目の由や、板倉さまから刀を差した四五人を交代でまわしてもらうわ」
「よろしゅう願います。しはると…わいも甘いよってな…」
「何や、何でも言うてみぃ?」
「へぇ、猿に油を撒かせて、ほんで火矢の一本も撃ってこなかったちゅうは…あくまで脅しだけのこつやったら、切支丹のほんまの狙いは若旦那さまやないか思うたんどす」
 与一は灯りに翳したような女のほつれた前髪に手を伸ばして薄ら笑った。
「大変やったな、わても脅しだけやて思うで…ほんでも、戦が近うなってくれば、わてが狙われるんはしゃあないわ」
 椎葉は男の憂いた手先を逃れながら放るように言った。
「京を、なんなら畿内を、お出になったらどうでっしゃろ?」
「おお、目打ちを撃つんと同じや、椎葉は昔のまんまや、おつむの回りもえろう早いわ。わてもさっさと出る気でおったところ…川のあるところ角倉ありや、親父の仕事やった木曽と富士、あとは大井の渡し場、ざっと按配を見てくれ言わはってな、大井の傍のお方がな」
「大井の傍いうとぉ?…駿府さまぁ」
 七兵衛は慌てて口許を押さえたが間に合わず、締め上げられたように天井の隅々を窺った。
「わてが近江を抜けるまでに襲われたら、七兵衛がよそでいらん口をきいたか、縁の下の猿使いに聞かれておったか…まあ、どっちでもええけんど」
 与一はへらへらとそう言いながら父の枕元まで膝を這わせた。
「お聞きのとおり、明日から発破がけ二人を連れて、近江を抜けて東海道へ参じますよって、角倉了以の仕事、確とこの目に残してきますわ。わてが戻るまで、洛中のかしましい枕どすが、仁王さんのような睨みのまんまで待ってておくれやす」
 与一は口上のようにさらりと言うと、父の視線をかわすように平伏した。了以は何か言いかけたように見えたが、俯いた手代の白髪頭がひくひくと下がるのを見て、可笑しそうに向こうへ寝返った。
「わては…わてはどないしましょう?」
 七兵衛らしい若い口調に灯りが揺らいだように見えた。
「とりあえず、嵯峨の守(かみ)の職は召し上げや」
 与一はそう呟くように言うと、ゆらりと背を立てて小さく咳払いした。
「ほんでな、わての名代で爾輔について曽根村まで行っとくれ。こないに騒々しくなければ、わてが爾輔について行って、塔婆に手を合わせて…あとは、爾輔の筋で使えそうな者がおったら、爾輔ほどの牛並びの足腰はようおらんやろが、もしおったらな、連れて帰るんやがな…」

 丹波は京の西方周山の陰盆と思われがちだが、近江と同様に京の騒乱変遷を避ける受け皿として、大いに哀歓を見てきた土地柄である。また出雲方面から畿内へ上る道柄でもあり、神事の交感や半島人の往来などを、笹を食む野鹿も茫洋と見てきたのであろう。亀山の法然寺あたりを過ぎると、半日前まで洛中にいたことなど俄かに苦笑してしまう、そんな七兵衛が伽半を手に先頭を歩いていた。五六歩遅れて棺桶を背負った爾輔の縁者である千次(せんじ)、その直ぐ後ろを亀山で落ち合った爾輔の弟、庫吉(こきち)が歩いている。最後尾で野芹をしゃきしゃきと噛んで来るのは、唐輪髷で藁巻きを抱えた遊女風体にしか見えない椎葉だった。
「庫吉はん、もういっぺん聞くけんど…庫吉はん!」
 七兵衛は振り返って棺桶の後ろに声をかけた。
「ほんまに、ほんまに鹿が角を突いてきたん?」
 庫吉は仕方なさそうに寝不足の目を上げて微笑んだ。十六の七兵衛からすれば、葬列そのもののような一行の黙りが気になって仕方ない。庫吉は小走って千次の前に出た。
「へぇ、ほんまもほんま、蕨を捨てんと尻を突かれるとこやった…」
「鹿は臆病やて聞いとるが…鹿の角は痛そうやな」
「角いうても、こう扇子に開いとらんで、百日紅の枝みたいなん、何やほろほろしとった角やった…」
「ほろほろしとったぁ?」
「へぇ、ああいうんは、老いて群れを追われたんかな…」
 庫吉がそう言って思わず佇むと、背負われた棺桶が黙々と抜いて行った。やはり想いは亡き兄へ繋がってか、弟は過ぐる棺桶に左手をおいた。
「あれが兄者やったんやろな…鹿の眼が泣いとった、角を突いてきたんやけど、鹿の眼がな、正月過ぎに京へ戻るときの兄者の眼やった…」
 庫吉の呟きは鳥鳴きひとつない森閑によく聞き取れた。先頭の十六の手代付きは、仰け反るように嘆息を吐いて前を向くしかない。後尾の女盛りの甲賀者は、萎れた芹の茎をやり場がなさそうに捨てた。
 京から八木まで来ると、各々の普段の足使いの差が露骨になる。致し方なく七兵衛は草餅茶屋で、徳川方に押さえられている城址を望みながら草鞋を替えた。そして兄に似ず小柄な庫吉がすすんで棺桶担ぎを交代した。椎葉は城址の上の掃天に目を細めて、誰にともなく言いよどんだような口調で言った。
「切支丹は死ぬと…天上に行くいうが…皆が皆、そうなんやろか…」
「切支丹で死ぬ奴だけいうんは、何やらからくりは一向宗の門徒とそっくりや…伏見ではな、杜氏の諸国話なんやけど、前田さまは今日にも明日にも、内藤如安を追い出したいそうや」
 千次が斯様に野太い声を発したので皆が驚いた。そして振り返った唐輪髷の女に訥々と話しかけだした。
「内藤…何やて?」
「あんた、内藤如安、ジョアン内藤を知らんのかい?あこを見てはったさかい、八木城の元の城主を知っていてのこつかと思うてな…あこの城主でこの辺りの領主やったんが、内藤如安ちゅう丹波の地侍で、根っからの切支丹らしいわ」
「今はどこにおるん?前田さまいうなら…金沢?」
「そうや。内藤如安はな、小西行長に仕えておったんが、関ヶ原で小西が石田側について負けおって、主の小西は斬首やったけど、内藤は同じ切支丹の肥前の有馬を頼って、ほんで今は前田利長の客人や…高山右近は知っとる?前田さまは、内藤なんぞよりも有名な切支丹、その高山右近も抱えてなさるよって…前田家も徳川さまには逆らえんやろうし、どこぞに追い出すしかないやろちゅうのが、わいら伏見の酒作りの敏い耳話や」
 椎葉は七兵衛を押しのけるように縁台に座った。
「しはるとやな、京から追い出された切支丹が最初に頼るんは、この辺りの隠れ切支丹いうこつかえ?」
 千次は周りを見まわす仕種をしながら苦笑まじりに声を潜めた。
「内藤がおるんやったらな、ほんで太閤さまの禁令がなかったらな、この辺りにも十字を持ったん奴が増えておったかもな…つまるところ、切支丹にしても、取り入って被れてくれた城持ちが、どれだけ天下さまに近いかに寄るわな」
 ここで頷きながら七兵衛が割り込んできた。
「切支丹にしても、一向宗にしても何にしてもやで、うまく取り入らんこつにはやってけへんやろが…わては徳川さまが禁制出された聞いて、どったんやった」
「何や、どったんて?」
「ひっくり返ってもうたんどす。わてには、切支丹の奴らいうか、伴天連が持ち込みおったもんで、十字の他にな、えらいおもろいもんが多すぎるんやわ」
「ほぅ、しはると若旦那は、徳川さまの禁令がなかったら、喜んで切支丹になっとる言わはってか?」
「ちゃう、ちゃいますわ。伴天連が持ち込みおった寸法や時数え、そんための道具や仕掛けがおもろいんや」
「同いなこつや、珍しいからおもろいんや」
「ちゃうて、わてにとっては、伴天連も比叡の御坊も同いなんや。ほんで、鉄砲…あれは遠眼鏡、そうや遠眼鏡なんちゅうのがおもろいんや」
「ほぅ、角倉の若だっ…」
 千次は犬鳴きのように口篭って後ろへ倒れた。
 椎葉は結び直そうとした草鞋の右足を蹴った。縁台の脚が折れて、雄叫びをひいた七兵衛が前に転がる。同時に椎葉は土埃をあげて二転していた。
「散れ、散るんや!」
 椎葉の叫びが繰り返されて街道筋が戦慄いた。庫吉はおろおろと棺桶に縋るしかない。それでも頭隠して尻隠さずの己が姿勢に気づいて辺りを見まわす。椎葉は仰向けに倒れた千次の耳元に這い寄ったところだった。
「庫吉はん、頭を低くしなはれ。撃ってきたんは城の方からや」
 横倒れた縁台の向こうから七兵衛の声だった。腹這いになって縁台を盾にしようとしている。庫吉はがくがくと頷きながら死角へまわった。
 椎葉は二発めの砲音を耳の後ろに聞いた。逆だと思って身を固くした瞬間、倒れた縁台の脚が吹き飛んで千次の爪先が揺れた。本人は顎を撃ち砕かれて絶命していた。
「庫吉はん、今のは後ろや!七兵衛、前の土手に這え、這って下れ!」
 椎葉は怒鳴るなり藁巻きを抱えて地を蹴った。そして街道を唐輪髷が大股で走りだす。これから向かう園部の方へ下っていった。老い松が目に入って腹を決めた瞬間、鎧帷子のような幹が弾けて白片をとばした。椎葉は根元の窪みへ転がり込んだ。息は揚がっているが、切れ切れに呟く口許に薄っすらと笑みがあった。
「へぇ、さよか…二匹で挟み撃ってきて…殺めたいんは…わいやな」
 椎葉は藁巻きを解く指先の震えに舌打ちしたが、取り出した兜割の枝鉤に指の腹を押しつけて呼吸を整えた。草餅茶屋の方に遠目を凝らすと、棺桶と千次の足先が辛うじて見える。なんとか半刻ほど時を稼げれば、田畑から戻る百姓連れ然り夕の往来が賑やかになる。ここは甲賀者らしく忍ぶしかない。椎葉は己に向けられた殺気のみを捉えようとした。
 半刻もしないうちに雨滴が唐輪髷を濡らしはじめた。こうなると火薬も鳥の糞だ。それにしても危うかった。草鞋を結ぼうと屈まなければ、日焼けた女の項を撃ちぬかれて…前のめりに突っ伏した面は二目と見られぬものだっただろう。もし二匹の鉄砲撃ちのうち、どちらかが猿使いなら…椎葉の思案顔に水をかけるような光景が眼を貫いた。
 大胆にも草餅茶屋の主が腰を屈めて出てきたのである。しかも千次の亡骸と縁台を淡々と離してかたづけている。そして街道上の棺桶を見とめるやいなや、やれやれと腰を伸ばして憮然と腕を組んだ。さらに険しい顔で辺りを見まわして、土手の河岸に向かってゆらりと手を上げて甲高い声を響かせた。
「お代をよろしゅう頼んまっせ…お代、お代どすわ!」
 どうやら七兵衛は一命を川べりに置いているようだった。そう思った矢先に土手から庫吉が膝這いで姿を見せた。根が悠長なのか、ここに至って開き直ったのか、皮袋から銭を取り出して手渡している。そして安堵顔で棺桶に向き直って手を合わせ、思いついたように茶屋の軒下の千次に手を合わせると、どうしたものかと土手下へ呼びかけた。
「七兵衛はん、どないしよう、千次はんの棺桶やけど…」

 草餅茶屋の主の飄々とした口利きで、近在の桶職人にもう一人分の棺桶を手当てさせることができた。千次も生まれ育ちは曽根とはいえ、同郷の爾輔の埋葬に同行して道連れとなったわけである。悲惨さに報いるには一刻でも早く曽根の安地に着くことだったが、如何せん、垂れこめてきた闇夜に先の観音峠を越えるのは危うすぎる。関ヶ原の残党崩れによる賊一派、そして大阪の情勢を窺いながら路銀の遣り繰りに焦る強力者、これらの悪鬼羅刹にとって夜半道中の女子供ほどの慰みがあろうか。よって茶屋の主の慣れた手配による園部での一宿となった。
 どう見ても女だてらの棺桶担ぎだったが、切支丹どもの鉄砲の的が己の唐輪髷だと知る椎葉は、黙々と千次の亡骸を背負って先頭を行った。兄の棺桶を背負った庫吉が興奮気味に続いて行き、最後尾で皆の荷物に両手を塞がれて来る七兵衛を気にしていた。
「七兵衛はん、そこで蕎麦がきでも食わしてもろて、たんと寝はったら、明日は日が真上に来んうちに、曽根で草鞋を脱げるよってな」
「おおきに…明日はわてが爾輔はんの桶を担ぐよって…庫吉はんの足腰の強さは、爾輔はんゆずりやな。そない言うても、兄弟やから然りやな…」
「何を言うてんねん。わいは兄者と違うてな、七兵衛はんくらいの折はな、よう寝込んで野良仕事にも出れん子でのう」
「そない言うてはるけど、何や、昼より脚が早うなってまっせ」
「鉄砲撃たれたんが効いたんかな…そいでな、何や、兄者の桶が軽うなったような気がするんやわ」
「軽うなった言うてか?」
「へぇ、兄者の御魂(みたま)が、先の曽根へと急いだんか、京に思い残しがあったんか…軽うなってしもたな」
 二つの棺桶を下ろせて一宿に与ったのは砦構えの百姓家だった。聞けば明智の丹波攻めに最後まで抗していた土豪の一族である。蕎麦がきどころか、自造の濁酒まで供されて大いに息をつけた。濁酒の竹筒を置いて、主に歓待の礼を言って下がろうとしたときだった。
「椎葉はん、待っとくんなはれ。庫吉はん、どないしたん?」
 囲炉裏の座を立ちかけた七兵衛が声をかけた。見れば囲炉裏から離れて横になっていた庫吉が、大層な脂汗を額からたらして熾き火をじっと見ている。誰もが濁酒と京からの難儀道中もあって、弟の庫吉も早々に眠くなったのだろうと解していた。
 椎葉は返事もしない庫吉の首筋に手を添えて脈をみた。走りきった後のように脈打っている。右を下にしていたので仰向けにしようとすると、両手が痙攣していて班が浮かんでいるのが見えた。
「何や、毒がまわっとるような…庫吉はん、庫吉はん!七兵衛、呼びかけ続けい。眠らせたらあかん」
 椎葉は言うやいなや竹筒をつかんで口にした。主夫婦は腰を抜かしたように身をひいている。
「あんじょうな酒どすわ」
 椎葉は呟くようにそう言って主に頷いた。すると七兵衛が女の胸を叩くように後ろ手を振ってきた。
「何や、後ろ、背中に手をまわしてまっせ」
 庫吉は抗うように自らうつ伏せると、痺れる手もまわらなくなった背中を見せようと形相を荒げた。小袖の左脇下に血痕が見える。急ぎ裾を捲ってみると、紫がかった腫れの真ん中に小豆ほどの孔傷があった。
「鉄砲があたってたんやろか…」
 椎葉は七兵衛の呟きに首を振るやいなや、黒ずんだ孔傷へ蝙蝠のように口をつけた。そして唾を己が左袖に吐き出した。
「毒や、強ようはないが青梅の芯に似とる味やし、何せ疲れとるから…わいは毒消しを採ってくるよって、呼びかけ続けて気ぃをはらせるんや」
 椎葉は庫吉の頬を軽くはってから膝を立てた。
「酒も毒のまわりをようしとるよって、七兵衛、引き摺り出して酒を吐かせるんや」
 椎葉はそう言い残して仰け反るように土間へ立った。そして土間の草鞋や二つの棺桶を見渡して、さほど急がずに思案顔でふらりと出ていった。
 椎葉は庫吉が吐ききらないうちに戻った。彼女の男勝りの目打ちや兜割の技を知る七兵衛も、甲賀衆として日頃から草木の扱いを秘して伝授されていることは知らなかった。庫吉に撃ちこまれた毒について聞こうとしたが、椎葉は辺りに視線を配りながら板石の上で之布岐(しぶき)の根を磨り潰しはじめていた。
「鉄砲の鉄丸に毒を塗るいうは…」
「阿呆か、毒なんぞ塗らんでも鉄砲やったら、あんたかて人を殺めるに易しや」
「そうやなぁ、火薬のええところちゅうか、早う使えるところがええわけや…毒を塗った矢のようなもんかのう?」
「ええから…やくたいなこつ言うとらんで、庫吉はんの顔でも拭きぃな」
 椎葉はそう言って手許の襤褸を放ると、潰した之布岐を摘まんで舌にのせた。そして毒消し汁の板石を七兵衛の方へ押しやってから、土間の羽虫を追うようにふらりと立つと、之布岐の苦味に浸っているかのように寡黙だった。七兵衛と主夫婦は慣れぬ手つきで庫吉に毒消しを飲ませきった。椎葉は主夫婦に礼を重ねて言ってから、一息ついたような七兵衛の肩を叩いた。
「寝る前にもう一仕事や。聞いたこつあるやろ、経をあげとらん仏さんの棺桶をな、土間にせよ家うちに置いとくとな、丑の刻になると仏さんが泣き出すんや」
「丑の刻に…聞いたこつなかね」
「ほなら京へ戻ったらな、若旦那、与一さまに聞いてみな。ほんで寝る前の一仕事…濁酒まで呑ましてもろうて、棺桶二つ並べておったら罰があたるよってな、二人でおもてに出しとこうかい」
 椎葉は大袈裟に欠伸をしてから土間へ下りると、灯りから遠くても真新しく見える千次の棺桶に手をかけた。七兵衛は追いかけるように手を出して、姉弟が仕込み樽を動かすように棺桶二つをおもてに出した。そして春の夜は花香死臭に敏感なものが多いので、棺桶それぞれに縄をかけ直した。
「庫吉はんが言うたとおりや…」
「庫吉はんが何か言うたぁ?わいのこつやったら、わいよりも背の低い男、あかん言うといて」
「そないなこつやなくて…」
「ほんで、あんたは庫吉はんの側に寝て、朝方まであんじょうに按配見張っとくれや」
「…庫吉はんが言うたとおり、爾輔はんの棺桶、軽うなった思わなんだかい?」
「あんな、庫吉はんが言うたとおり、御魂が先に行ってしもたんやろ。寝よ、寝よ」
 囲炉裏の残り熾きも暗くなって、庫吉の寝息が安らかそうに聞こえる丑の刻だった。七兵衛も往生したように寝入っている。しかし囲炉裏向う側に空の藁巻きはあっても、大柄な女の寝姿はなかった。
 椎葉は半刻前ほどから土間の隅にいた。爛々とした眼が積み臼の裏に光っている。しかし己が七兵衛にした仏泣きの話、それを思いだして微々と笑んでいる口許があった。与一が自慢するように話していた吉田の小僧、思っていたよりも風体は大人びていたが、才があるようには見えない放心した表情は聞いたとおりだった。大阪攻めも近そうな斯様な乱世には些か珍しい。いや、乱世には得がたい貴種なのかもしれない。奴が算術や遠眼鏡に夢中になれる日々がくれば…失明した兄月笙は、戦はなくならない、と言っていた。
 もはや寅の刻だった。何かが軒先にあたり、萱葺きを踏み上がっている。この刻にこの気配であれば、甲賀衆としてはなかなかの腕と頷かざるえなかった。嵯峨野の吉田屋敷での動きを想っても、野猿並みの身軽さがあって、野猿など遠く及ばない忍びが身についている。切支丹ゆえに忍ぶのか、忍びは切支丹ゆえなのか…南に向いた梁端が軋んだ。どうやら奴も蜘蛛足までには至っていない。思うまもなく、萱が一本一本開かれ弾ける音、それが案外に小気味よい。奴は見ている。囲炉裏周りを目の当たりにしている。なんと七兵衛が仰向けに寝返った。奴は臓腑を掴まれたような心地だろう。椎葉は兜割の枝鉤に唇を押しあてた。
 重ねて半刻が過ぎた。春ゆえか夜烏鳴きも随分と早々に思える。それに合わせて、萱葺きを踏み下っていく音がする。奴がどれほど待とうと、甲賀女の戻り寝姿は見せられない。今宵は諦めたのか、踏み音が苛々していた。気がつくと萱葺きの上の気配はなくなった。猿のごとき跳躍と猫のごとき忍び足、これほどの術者に相当する甲賀衆を辿ると、目明きの頃の兄月笙と山中の蔓(かずら)、そして黒川の右近…奴は失意を隠さずに降り立った。些か離れての着地と葉擦れからすると、軒先に近い栗の樹を伝ったようだ。
 椎葉は一息ついたようにうな垂れてると、そのまま羽目板に縋るように這いつくばっていった。顎先が土間につきそうなあたりに裂け目があって、かろうじて二つの棺桶の陰形が見える。そこへ栗の樹を下りた奴の影が現れた。いや、萱葺きに忍んでいた奴が棺桶に戻ってきたのである。黒の頭巾被りが深くて目鼻立ちは窺えない。奴は躊躇せずに元の隠れ蓑、爾輔が収まっていたはずの嵯峨の棺桶に片脚を入れた。そして街道向こうに梟鳴きを送ると、そのまま蓋と縄をずらしながら己が身も入れきった。土遁の鼬も舌を巻くだろう。猿のように身を屈めた小柄な切支丹…できれば爾輔が見た月のような眼を見てみたいと思った。
 暫くして梟鳴きに応じた草染めの頭巾が街道に現れた。長尺の鉄砲らしき鞘袋を背負っている。枯草の頭巾は爾輔の棺桶にひたと寄ると、蓋縁に口を寄せて事の首尾を話しているのか。そして棺桶の縄の弛みを締めあげて、桶を小突きながら薄ら笑いを浮かべている。あの背の鉄砲が千次を殺めて、その千次は並びの棺桶に収まり…椎葉は兜割を握り直して唇を咬んだ。やれる…鉄砲を背負いながら身が重そうで、八木での挟み撃ちに気をよくしている…千次と同じように後ろからやってやる。唐輪髷に指が這って目打ちが抜かれた。椎葉は冷ややかな目打ちを銜えて裏口へ後退していった。
 春の闇が霞へ散じるように明けた。遠くで明け六つが鳴らされている。忍ぶことなど知らぬ烏連れが、栗の枝から並んだ棺桶を大いに気にしはじめていた。
 卯の刻半ばの明るみに、夜烏に見紛われる五位鷺(ごいさぎ)の背藍と腹白が見分けられた頃、街道を丈のある女が下ってきた。椎葉が日中と変らぬ遊女の風体で、野芹を咥えてゆらゆらとやってくる。昨日と違って背筋が振られているのは、背に鉄砲と兜割を入れた鞘袋があるからだろう。加えてこの季の薄明が甘い睡魔を伴っていた。しかし事は片づいていない。七兵衛や主夫婦が起きぬうちに、些か丁重な仕業にはなるが、桶ごと焼いて奴もほとけにしなければならない。それも切支丹なら望むところか、と思うや野芹が苦々しく吹きだされた。
 七兵衛が打っ棄るように目覚めたとき、庫吉は塞ぐように背を向けていた。回復したらしき血の気のある横顔は、上がり框にへたり込んだ主夫婦を見ている。主たちは外の何を見ているのやらと、七兵衛は土間へ下りようとして焼け焦げた臭いに気づいた。そして唖然としている夫婦から目を外へ転じると、一つだけの棺桶を背にして座っている遊女ふうの女、椎葉の長い脛が並んで見える。傍らに焔を残して桶の残骸が白煙を上げていた。
「椎葉はん、その燃え残りは…」
「見てのとおり、切支丹を煙にして…上へ行かせてもうた」
 七兵衛は疲れきった女の言を反芻しながら、今更ながら恐々と遠巻きに近寄った。そして彼女が寄りかかる棺桶が千次のものであることを確認した。
「棺桶におったんか、爾輔はんの棺桶に…化けもんや…」
「同じや、切支丹いうてもわい等と同じ、血を流して死ぬ禿げ猿や…」
 七兵衛は中空を見上げる女を凝視するしかなかった。
「化けもんや…八木の茶屋で入れ替わりおったんや、庫吉はんが担ぐ棺桶に」
「化けもんでも何でもええが…夜中、山野を駆けまわる業とはいえ、奴も人並みに棺桶で逝けるとは思っておらんかったやろな。わいを追ってきたなれの果てや」
「何ちゅう奴等や…殺めたいんは与一さまや思うておったのに」
 椎葉は弾けたように呵々と笑いだした。洛中でも見かける狂女の乾いた笑い…戦国の世の朝映えに相応しい響きだった。
「丹波へ向こうてからは、奴はわい一筋やったんや。油撒きの猿、あれをあんじょう可愛がっておったそうな…」
「奴…その猿使いと話したんか?」
「諦めおったんやろな…切支丹は皆ああなんかのぅ…可愛がってきた猿をわいに殺められ、仇をとらんとわいを追って丹波行き…奴はわい一筋やったんや」
 椎葉の笑みが空疎になって、山麓の霞の彼方へ何か見たさの視線を放っていた。
「与一さまやったら、切支丹いうても、黒焦げの骨が残ったんよって、近くの寺に納めるよう言わはるやろな…」
「そやな…嵯峨野の西、化野の方やったら、唐や南蛮も引き受けるとか言わはってたわ」
 椎葉は笑いきった目尻のまま七兵衛を見上げた。
「あんた、読み書き算術に長けとるんやから、ひとつ字面を探ってほしいんやけど…切支丹としての名がな、フアンいうそうや」
「フアン?フアンに字をあてるんかいな…ほんで猿使い、フアンの顔は見たんか?」
 椎葉はふわりと唐輪髷の目打ちにふれてからうな垂れた。
「爾輔はんが言うてた月、呉須の月いう眼を見てみたかったんやけどな…わい等は武者とはちゃう。わい等の仕業はけものの業…殺めの要なんは、闇、陰、そして後ろや。顔も見んと焼き殺した…ええ声しとったわ」
 七兵衛は千次の棺桶を担いで曽根へ向かった。街道の賑わいを振りきるような足取りには、ここ数日で得た大人びた苦々しさと焦燥があった。
 椎葉は庫吉と共に八木へ戻った。たとえ亡骸を烏が突いていようと、弟庫吉が兄爾輔を拾うまで…再び手配した棺桶に遺骨を収めて、七兵衛が待つ曽根へ向かったのは一両日後だった。
 五位鷺がくわえた桂川の成り鮎、嵯峨野を行く者がその幅のある形(かた)に目を見張る頃だった。七兵衛は蔦女についてきた椎葉に一冊の短冊を渡した。与一の跳ねたような書で「芙庵」とあった。

                                       了
安土往還記 (新潮文庫)

安土往還記 (新潮文庫)

  • 作者: 辻 邦生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/04/27
  • メディア: 文庫



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